ARC ADVISORY GROUP 主催
第11回 ARC Forum 2009, Japan
サステイナブル製造とアセット ライフサイクル管理、その戦略とベストプラクティス
2009年7月15日(水)、KFC ホール(東京)
第11回を迎えたARC Japan Forumは2009年7月15日に東京で開催され、この厳しい経済状況下にもかかわらず、製造業、システムインテグレーター、サプライヤーから200名近い企業幹部が参加しました。今日の製造業を取りまく様々な時宜を得た問題・課題について議論を取り交わし、内容のある非常に意義深い会合となりました。

フォーラムは、グローバルビジネスの現状についての認識と、世界経済の回復に向かって先導的な役割を強く期待されるインドおよび中国市場の動向についての、ARCの報告で開始されました。続いて政府系研究機関と、製造業界およびサプライヤー業界の主要な企業からの発表が
計10件あり、このなかでサステイナブル製造とアセット ライフサイクル管理について、各発表者から理論的な方向性や実践的取組みについての報告が行なわれました。これらは、現状の危機的な経済状況のもとにおいても、日本の製造業界が政府と歩調を合わせ、“持続可能な製造業”を維持発展させていくため多様な技術的課題に対して取り組みを続けていることを明確に示すものです(以下にその詳細を報告します)。
世界の動向
本フォーラムの開始に当たって、ARC社長アンディ チャーサからビデオメッセージを通じ、グローバルビジネス環境の現状と景気回復の見通しについての説明があった。その中で、サステイナブル製造という考え方は、製品、サプライチェーン、製造活動が地球の資源と環境に優しい活動の組み合わせとして捉えられるということ、そして、その実現のために、製造設備が重要なプロセス産業にとっては、ALMがトッププライオリティの課題であることが強調された。
ARCインドのラジャバハヅール アルコットからは、インドおよび東南アジア経済の動向について報告があった。アルコットによると現在の世界経済の低迷にも関わらずインドは強く経済成長を続けている。人口構成の中で、消費力を持つ層の爆発的な増加による国内消費の増加が、結果として、経済発展の一つの大きな要因となっており、また製造業の成長の要因ともなっていると、現在の動きが強調された。
ARC中国のジェアード マラースキーは、中国の発展と、その課題と期待について報告し、その中で、急速な発展のわかりやすい事例として、ここ10年の上海と北京の地下鉄網の発達を図示した。中国では、今日の陰鬱な世界経済の落ち込み中でも、国内の製造業界は課題を抱えながらも政府による景気刺激策に支えられ大きく成長し続けている。エネルギーは中国国内の製造業にとって大きな鍵となる課題であり、サステイナブル製造へ向けての施策をとることが非常に重要である。マラースキーは、中国の製造業が、今後は、現場および企業全体の双方について世界のベストプラクティスを取り入れ競争力をつけていく必要がある点を強調して発表を締めくくった。
近年、インド、中国、及び他のBRICs諸国が世界の工場として発展していくと考えられてきた。ここにきて、インドと中国は世界で最大の消費市場として世界経済の回復を牽引する強力なエンジンの役割を担うと多くの人が期待している。一方で、サステイナブル製造への取り組み、環境問題を克服しながら生産性向上や品質改善を進めるための多くの課題が残っている。これらの課題解決のためには、グローバルサプライヤーと製造業は協力して最新技術の導入と世界のベストプラクティスの適用を進めていくことが必要となる。
サステナブル製造
(独)産業技術総合研究所(産総研)の中岩勝氏からは、経済産業省の目指すグリーン・サステイナブル・ケミストリィと産総研が行っているプロジェクトと課題についての発表があった。この政府の動きと並行して産総研では低炭素社会を目指した多くの研究が進められている。その例として内部熱交換型蒸留塔の技術開発研究について説明があった。多くの聴衆からこれらの化学を基盤とする発表内容に対して多くの反響があった
旭化成EICソリューションズの桑原隆一氏は、多くの企業で盛んに行われている「見える化」についての取り組みの発表を行った。ソフトセンサーとNIRセンサーを組み合わせ導入された化学工場における実際の「見える化」のケースについての報告があった。また、モデル
予測制御のパフォーマンス向上、モデルの維持保全及び「見える化」実現への課題の議論がなされた。桑原氏は高品質の製造、最終的にはサステイナブル製造を実現するために、ソフトセンサーと改善されたモデル予測制御の組み合わせによる「見える化」が大いに貢献できると語った。
住友重機械エンジニアリングサービスの伊藤義和氏から燃料の削減を目指す高効率トランスファークレーンの開発についての発表があった。既に日本及びアジア各国の港湾のコンテナターミナルで導入されているハイブリッドシステム、高効率トランスファークレーン(Rubber tired gantry cranes:RTGC)、の技術開発の報告である。この新しいシステムは黒煙やNOX等による環境への悪影響の減少と、運転と保全のコスト削減を同時に達成するものである。
三菱電機の渡部裕二氏及びコグネックスの磯部龍樹氏からは、サステイナブル製造に向けたFAシステムとビジョンセンサーの融合の効果についての発表があった。サステイナブル製造の実現にはエネルギー消費、資源有効利用、環境負荷の最小化が重要な課題である。このための第一歩は、製造現場で発生する操業情報を、センサーシステムを利用して収集し「見える化」の実現を図ることである。これを達成するために、コグネックスは、三菱電機のFAシステムに直結できるビジョンセンサーを開発した。この組み合わせで製造現場の「見える化」の実現に大いに貢献することが期待されている
。
HCLジャパン社長、ハリクリシュナ バート氏より、HCLの提供するグリーン・デザイン・ワークベンチについての発表があった。これは企業に対して、サステイナビリティを企業文化として構築していくトップダウンの手法である。この手法は技術、企業、製造活動、サプライチェーンの全体に渡るものである。この作業を通じ、顧客企業に対し、新たな課題となる環境規制へのコンプライアンスに対する持続的改善を支援し、また、サステイナブル製造達成への目標に向かって、IT活用やビジネスの構造やプロセスの再構築を進めていくことを助けることが可能である。
設備ライフサイクル管理 (ALM)
ARCジャパンの池ノ上晋が、ARCの考えるALMモデルについて紹介した。このALMモデルは、サステイナビリティ達成への目標として認識される多くの課題を示唆している。効果的なALM実現への戦略は、製造業としての資産(設備、人間、バーチャル(情報))、資産のライフサイクル、ALMのプロセス、そしてALMに関係する人々についての確実な理解から始まる。
三井化学の臼井修氏からは、プラントの建設完了時に運転保全部門に引き継ぐべき文書管理のベストプラクティスについて説明がなされた。プラントの設計と建設のプロセスで発生する関係資料を確実に纏め、完成図書として運転保全部門に引き継ぎ、変更が発生した時点で書類として更新していくことが重要なことである。三井化学ではプラントのライフサイクルに沿った書類管理の明確な手順を定めている。臼井氏は、「事故の防止のため
の即効性特効薬はなく、安全の為の諸施策は、事故防止のための遅効性の漢方薬である。」と語った。
新日本製鐵の山下英隆氏及び新日鉄ソリューションズの井上和佳氏からは、安全操業を支えるユビキタスソリューションへの具体的な取り組みについての発表があった。このユビキタスオペレーター支援システムの目的は、大量のベテランオペレーターの退職にともなう現場作業の質の低下を防いでいくことにある。実導入例として、モバイルIT、音声認識やワイヤレス測定機器など最新技術を応用した取り組みが説明された。全ての情報は、ワイヤレス測定機器やスマートセンサーからPDAを経由しヘッドセットを通じて現場作業員へ送られる。この二社は、今後とも、スマートセンサーネットワークを基盤としたユビキタスソリューションを開発し、質の高い高度な技術を持った操業支援の仕組みを作っていくと同時に、運転と保全作業のコラボレーションも支援していくこ
とを目指している
。
これらの発表のあとの質疑応答では、多くの参加者からALM戦略につての期待と更なる理論と実践からの議論の必要性が語られた。このことは、高度なALMの実現は挑戦的な取り組みであり、これからも多くの時間と全てのALM業務の関係者との議論が必要であることを示している。
また、化学および鉄鋼の二社からの発表を通じて、安全操業への強い関心が明確に認識できた。企業のサステイナビリティは一回の大事故により大きくダメージを受ける。事故の発生を防ぐ手立てとして最も重要なものの一つは、過去の事故の多くが人的要因により引き起こされている事実からも、人間の活動を色々な手段を使って如何に支援するかという問題である。このALMについてのセッションで議論された現実的なアイデアやアプローチは、安全操業の支援策を考える際に非常に役に立ち、助けとなるであろう。