オープンオートメーションのグローバル動向を把握する

Submitted by Shin Kai on

 

産業用IoT (IIoT)、ビッグデータのAI 分析、クラウドのマイクロアプリケーション活用、エッジコンピューティングなど、新技術の流入で製造業が変革(transformation)の時代に突入している。ではこの動きはプロセスプラントにどういう改善効果を約束するだろうか。プロセス業界には、すでに長年にわたり、フィールドから大量のデータを収集し、その分析を通じてプロセスと製品品質の安定化と安全運転に取組んできた経験がある。これに対する、米欧の石油化学系大手企業の動きは注目に値する。従来のデータ活用とは桁違いの変化がプラント運転に起ころうとしている。この変革の波に取り残されないために、彼らが取組み始めているのは、オートメーションのオープン化であり、それを実現するための新プラットフォームの確立である。

ディスクリート産業のIIoT やAI 導入が、主としてオートメーションサプライヤや製造業に進出を図るIT 系企業が主導しているのとは対照的に、プロセス業界の変革の動きは、米国でも欧州でも大手ユーザ企業から起こった。DCS(分散制御システム)の導入からすでに40年以上を経過して、この間、技術革新の恩恵をあまり受けなかった業界の危機感といったものがユーザ企業を突き動かしている。

米国のオープンオートメーション

米国でオープンオートメーションの旗頭となっているのはエクソンモービル(ExxonMobil)である。同社は石油生産のダウンストリーム(後工程)の制御システムとして、DCS の更新期にあたって、従来型のDCS の新型を採用することを止め、自らオープンオートメーションの開発に邁進している。そのビジョンを整理すると次の6点になる。

(1)標準ベース、オープンリアルタイムシステムへのDCS の進化-仮想化と階層のフラット化 

(2)セキュアで相互運用が可能な制御システム 

(3)既設設備にも新規設備にも適用可能 

(4)同社アップストリーム(石油採掘生産)のオートメーションビジョンと整合 

(5)市販製品化:エクソンモービルの特注専有システムとしない 

(6)現在のDCS 市場全域で受入れが可能

プラントによっては、30年以上にわたり、夥しい数のセンサ、バルブ等アクチュエータを安定的に制御してきたDCS システムを解体し、あるいは一端分解(デカップリング)し、継続して必要な機能・機器と入れ替える機能・機器とを選り分け、リアルタイム・サービス・バスを根幹とするフラット構造の新たなプラットフォーム上に標準に即して再接続する、という作業だから、膨大な作業と検証とリスクを伴うプロジェクトである。現時点で、このプロジェクトが成功するかどうか、確証はない。しかし、ゆっくりはしていない。

システムインテグレータのロッキード・マーチン(Lockheed Martin)と組んでの新システムの概念実証(PoF)を今年末までに完了する予定であり、これと並行して、オープン・グループ(Open Group)がオープン・プロセス・オートメーション・フォーラム(Open Process Automation Forum)を形成して標準化作業と認証プログラムの策定を進行中である。この活動には、今年1月時点でアラムコサービス(Aramco Services)、BASF、シェブロン(Chevron)、ダウ・ケミカル(Dow Chemical)、コッホ(Koch Industries)、メルク(Merck)、プラクスエア(Praxair)、シェル(Shell)などユーザ企業に加え、大手DCS ベンダ各社、ハード・ソフトのサプライヤ、システムインテグレータなども参画している。エクソンモービルは、実機のプラント実装を2020年末には開始したい計画だ。

欧州のオープンオートメーション

他方、欧州でオープン化を推進しているのは、ドイツの化学系ユーザ企業が中心となって形成しているプロセスオートメーション技術のユーザ協会NAMUR(ナミュール)である。会員にはBASF、バイエル(Bayer)、アクゾノーベル(Akzo Nobel)、ソルベイ(Solvay)、サノフィ(Sanofi)など欧州化学、薬品業界の大手が揃う。ここで構築を進めているのが、NOA(NAMUR オープン・アーキテクチャ)である。米国のオープン化と異なる点は、DCS 周りの制御系を大きく変更することなく、別のクラウド情報系プラットフォーム機軸を確立して、これに既存のビラミッド型制御システムを連携させる手法を採用しているところにある。いわば、既存のプラント制御構造に付加する形で、欧州系企業らしく、インダストリ4.0 を効率的、柔軟に活用する仕組みを取り込もうとしている。これによって、フィールド層からエンタープライズ層まで、インダストリ4.0 標準に準拠した情報系の統合を図る一方、実装ベースの可用性と安全性とはリスクに晒さないことを目指している。

日本のプロセス業界の反応

さてでは、日本のプロセス産業はこのオープン化の動きをどう捉えているだろうか。エクソンモービルのプロジェクトに関してARC がこれまで聞くことができたユーザ企業の反応は、概ね高い関心を示しながら、一方で腰が引けている。例えば、ある石油会社では「基本的にどこでも普及したDCS を競争領域とは捉えていない。第一、リスクが大き過ぎる」という感想であり、またある化学企業は「新たなオープンシステムと現状の制御システムを比較してどれほどオープンシステムが優れているかを検証する手立てがない」とも述べている。この背景には、決して日本に限った事情ではないが、国内投資予算の圧縮とともにプラントの近未来のグランドデザインを描くためのプロセスエンジニアの要員が各社で削減され、組織内での勢力が削がれている問題がある、とARC では見ている。

しかし世界は動き出している。米欧のオープン化の動きは、必然的にサイバーセキュリティの確立とも一体となって進められている。ARC では、これらの動きに連動して、7月に国内で2つのイベントを予定している。まず7月11日(火)には、東京・両国のKFC ホールで東京フォーラムを開催する。今回の基調講演者には、ARC で米国のオープンオートメーションを担当するリサーチ・ダイレクタのハリー・フォーブス(Harry Forbes)が登壇し、オープン化を含む世界の最新の動向をお伝えする予定である。またその翌週7月20日(木)には、参加者をユーザ企業とEPC 企業に限定したオープンオートメーションセミナーをベルサール東京日本橋で開催する予定である。ご注目いただければ幸いである。