日本電気計測器工業会の2つの顔

Submitted by Shin Kai on Thu, 12/07/2017 - 19:55

 

日本電気計測器工業会(JEMIMA)は、11月29日から12月1日まで東京ビッグサイトでSCF2017/計測展2017 の共同主催者としてこれを運営し、その1週間後の12月7日には、都内で「電気計測器の中期見通し2017~2021年度」の発表会を開催した。この2つのイベントに参加して思いがけず同工業会の相容れない2つの顔に接したような印象を持った。それは、1つは展示会のテーマ「IoT で未来を拓くものづくり新時代」どおりに3年後、5年後の成長に向けて果敢にデジタル変革を推進する工業会の顔であり、もう1つは、現実の事業環境を見据えつつ3年後、5年後の電気計測器業界の成長予測を現状の横ばいと発表する顔である。

SCF2017/計測展2017の活況

オートメーションと計測の先端技術総合展として3日間で5万3,000人を集めた今年のSCF2017/計測展2017でのキーワードは、やはりIoT であり、ビッグデータをベースに、AI や機械学習・深層学習を取り込んだ分析機能の活用であり、遠隔監視や遠隔制御の導入・事業化、クラウド利用のプラットフォームやエッジコンピューティング、スマート製造等へと展開するデジタル変革の推進であった。

これらのテーマは、すでに世界共通の関心事となっている。会期中、米国の大手石油会社からの客人を同伴して会場内の各ブースを歩く機会があった。この客人は外国人に親切とはいえない展示の中にも、IIoT、AI、Cybersecurity といった表示板が並ぶ展示コーナーでは必ず立ち止まり、その展示の詳細を知りたがった。また会場でお会いした旧知の食品・飲料業界のユーザ企業のエンジニアは「現場力というが、現場での人材不足はますます深刻化している。そこにIIoT を上手く活用したいという思いがある」と語っていた。

会場では今回、ABB やエマソン、ハネウェルなど海外大手の出展こそなかったものの、出展社のブースでは、新たなセンシングデバイスや、エッジコンピューティングのプラットフォームの開発が前進する一方で、既存のDCS やヒストリアンで処理されるデータへのAI の適用による高精度のプロセス異常予知、PLC のIoT 対応モデルの導入展開やセキュリティの組込みなど、既存の商品と新技術の融合が幅広く進んでいることを確かめることができた。

さらに、製造企業の投資が、IoT やビッグデータとAI 活用へと動く一方で、日本の産業政策として、「Connected Industries」を打ち出した政府も、様々な規制緩和とあわせてIoT、AI、ロボティクス活用推進への支援を積極化している。SCF の展示会場では、設立されたばかりのEdgecross コンソーシアムが、エッジコンピューティングのプラットフォームを共同デモ展示して、国が産業力強化の要諦とした協調領域での競合力の強化に一歩踏み出した。

JEMIMA の中期見通しは横ばい

その展示会の1週間後に電気計測器の中期見通し2017~2021年度の発表会が開催された。同イベントは会員125社・10団体で構成する同工業会の基本機能部会の傘下に19社で構成する調査・統計委員会が主催する。同委員会は毎年、会員企業の調査データをもとに年度ごとの売上高を集計する一方、会員企業にアンケートを実施して、今後5年間の市場見通しをとりまとめ、中期見通しとして報告書を発行している。今回は、同委員会の委員長の新野哲久氏(東亜ディーケーケー)氏が電気計測器全体の売上高推移を総論として発表し、続いて電気測定器(一般)、環境計測器、放射線計測器、電力量計、PA 計測制御機器の順に5つのワーキンググループ(WG)の主査が報告を行った。

これによれば、電気計測器全体の国内売上と輸出を含めた2016年度の実績は、5,552億円で前年度比2. 4%減となった。2017年度は同比0.1%の微増の5,556億円を見込む。また2018年度~2021年度は、微増微減を繰り返しながら年平均成長率0.2%減を予測し2021年度では5,502億円になると見通している。2016年度以降は実質ほぼ横ばいを見通していることになる。これに海外拠点の売上げを含めた電気計測器全体の実績も、2015年度の7,809億円、2016年度の7,507億円に続く2017年度の7,561億円から2021年の7,603 億円に至る予測はほぼ横ばいを見込んでいることを示している。

では、3年後も、5年後もほぼ横ばいと予測する会員企業のアンケート回答は、先の展示会場でのIoT やAI 活用による新製品・新サービスソリューション開発の3年後、5年後の成長予測とどう整合するのだろうか。計測展における、IoT、AI による事業成長への期待感の大きさと、実質横ばいを予測する中期見通しの間が乖離していないだろうか。

電気測定器(一般)とIoT

この乖離を理解するためには、中期見通しの発表会での各WG の発表の詳細に立ち入る必要がある。5つのWG の発表のなかで、2017年度以降のIoT の影響に言及したのは、電気測定器(一般)とPA 計測制御機器の2グループであった。このうち、電気測定器(一般)は、これに含まれる分類別では汎用測定器で「IoT機器の市場拡大に伴うセンサー開発」、通信用測定器で「IoT 向けWi-Fi やLPWA のネットワーク接続の増加需要」や「クラウドの拡大に伴うデータセンター関連」、エネルギー管理用測定器で「スマートシティなどエネルギー管理関連」の需要を見込む。また製品別では電圧・電流・電力測定器で「IoT やウエアラブル向け省エネセンサー開発」、オシロスコープで「IoT 関連でセンサー開発関連需要」、スペアナ・電波測定器で「IoT 向けのインフラの増加」、回路素子・材料測定器・ネットワークアナライザで「M2M、IoT、ウエアラブル関連市場」、移動体通信用測定器では「次世代移動通信5G技術開発」「IoT 向けWiFi やLPWA のネットワーク接続の増加需要」など、そのほぼ全製品分野でIoT 関連の影響を予測している。この需要予測もあって、電気測定器(一般)の2017年度~2021年度の年平均成長率は6.3%増と、今回のWG による予測中最も高い成長率を見通している。

これに対して、別のWG である電力量計WG が担当する低圧計器において、2016年度にピークを迎えた電力会社のスマートメーター需要が、2017年度~2021年度には年平均成長率で10.3%減となる急減速を予想しており、これが電気測定器(一般)の成長に対して相殺の役割を果たす構図となっている。

PA 計測制御機器とIoT

他方、PA 計測制御機器の需要見通しの発表にも、IoTの影響に関する言及があった。同WG は、対象となるシステム製品の需要特性から、売上ではなく受注額をベースとし、また製品別ではなく業種別に需要動向を分類している。まず2017年度では、機械分野で「IoT普及に伴う半導体製造装置の需要増」を指摘し、2018年度以降の見通しでは、官公需(受注額)における下水道分野での「遠隔監視(クラウド、Web)の導入増加」を予想。さらに民需では、石油精製分野で「IoT を軸としたプロセス制御の高度化」を、食品分野で「IoT や情報関連技術導入の本格化」を、電力分野で「「IoT や情報関連技術を取り込んだ設備の導入」にともなう需要増を予測している。

ただし、PA 計測制御機器では、各製品がシステムに組込まれて作動するため、IoT 部分を切り出してその影響度を評価することには困難が伴うことが予想される。そのためか、PA 計測制御機器の2017年度~2021年度の受注額予測は年平均成長率0.3%増であり、この間の官公需、民需、輸出の年平均成長率はいずれも1%に満たない。極めてフラットな横ばいの予想である。PA 計測制御機器は、全電気計測器の売上の40%を超える最大部門であるが、同部門のIoT による今後の成長の度合いが不明なところが、中期予測の全体に影響していると見ることもできるだろう。

JEMIMA は、昨年度からIoT イノベーション推進委員会を立上げ、IoT の進展が従来の計測器事業とどのように関わるかを探り、IoT を業界の成長戦略に取込むための活動を開始している。この活動の一環として、IoT 事業をどのようにして中期見通しに盛り込むかに関しても議論されることを期待したい。