オープン・プロセス・オートメーション(OPA)と基本プロセス制御層(レベル 2)の技術革新

Submitted by Shin Kai on Mon, 02/25/2019 - 15:31

 

次世代のプロセス制御システムの構築を目指す、オープン・プロセス・オートメーション・システム(O-PAS)開発の活動が、米国・欧州・中東で並行して進行している。とりわけ、米国を中心にエクソンモービル(ExxonMobil)の働きかけで始まった同システム開発は、例年2月に米フロリダ州オーランドで開催されるARC インダストリ・フォーラムがニュースの発信起点となるため、1年間でどれだけその開発や標準化が進展したかに関するプロセス業界の関心が、このイベントに集中することになる。今年、同イベントに参加した関係者の間では、「堅実に前進している」という感想と「あまり前進していない」という感想が分かれた。そこで、このブログでは、米国におけるO-PAS 開発とその標準化を担うオープン・プロセス・オートメーション・フォーラム(OPAF)の近況を少し整理しておきたい。

O-PAS は、標準ベースのオープンで、セキュアで相互運用が可能なプロセス制御アーキテクチャである。その特徴は、特殊仕様品としてではなく商用品ベースで供給されること、但しサプライヤの知財(IP)が保護されること、設計段階から適合可能なセキュリティが仕組まれていること、エンドユーザ利用のソフトウエアが可搬性を持つこと、クラス最高仕様のコンポーネントの利用を可能にすること、差し替えに手間がかからないこと、技術革新と価値創出を可能にするシステムであること、設備のライフサイクスコストを低減できること、さらに既存施設でも新規施設でも適用可能であること、などである。

OPA 参照モデルでは、ISA 95 の制御のピラミッド型階層構造が平準化され、O-PAS 接続フレームワーク(OCF)と呼ぶリアルタイム・バス通信ネットワークを軸に、下位層では、各種アナログ・デジタルI/O、アクチュエータ等フィールド機器(レベル1)およびDCS、 PLC など制御機器(レベル2)、さらに1部のレベル3 の機能を分散制御ノード(DCN)機器の機能を介して接続する。他方、上位層では、オンプレミスのOT データセンタが接続し、そこには仮想化技術を活用してISA 95 レベル2、レベル3 の機能を備えたソフトウエアを集積したリアルタイム先進コンピューティング・プラットフォーム(RTAC)が位置づけられる。上位層ではこのほかにも、ファイヤウォールを介してレベル4 の機能を実現するビジネスプラットフォームや、外部クラウド接続も実現可能にする構想である。

[1] 今年のオーランドフォーラムでの進展

では、エクソンモービルによる2018年ARC フォーラムでの発表と、今年の同社の発表を比較してその進展をあと付けてみよう。

PoC からプロトタイプ開発へー変更ポイント

2016~2018年、同社はロッキード・マーティン(Lockheed Martin)と契約して、ラボラトリベースの概念実証(PoC)に取り組んだ。ABB、Ansys、アスペンテック、インテル、NXTコントロール、ウインドリバー等サプライヤ10社の共同を得て、相互運用性、コンフィギュレーション・ポータビリティ、差し替え互換性(インターチェンジャビリティ)、アプリケーション・ポータビリティの4件に関して技術可能性評価を実施し、2018年のARC フォーラムでPoC 段階に成果を収めたと発表した。

これに続けて、エクソンモービルとロッキード・マーティンは、エンジニアリング企業のウッド・グループ(Wood Group)およびサプライヤ11社と共同して、パイロットユニットのプロトタイプ開発への取り組みを開始した。2019年のARC フォーラムでは、プロトタイプのシステム・アーキテクチャを公開するとともに、2019年末までこの開発を進めると発表した。

概念実証段階からプロトタイプ開発に至る間の変更点としては、次の諸点が挙げられる。

  • DCN ハードウエアをラズベリーパイからオートメーション市場で提供されている商用製品のカスタム品に変更する。
  • リアルタイム・バス通信プロトコルをProfinet からModbus TCP/IP  に変更する。またDDS を省きOPC-UA に統一する。
  • ソフトウエアではModbus TCP/IP およびOPC-UA 用商用SDK を追加する。
  • ヒストリアンを単純なデータ記録からPI System に変更する。
  • アラームおよびメッセージングを追加する。
  • サイバーセキュリティに関して、通常DCS では提供されないIT セキュリティ機能をテストする。
  • RTAC では、ウインドリバーTitanium Control に替えてDell EMC VxRail/VMware を採用する。
  • さらに、リアルタイム・バスへの接続をDCN 経由だけでなく、インテリジェントI/O にも認めることで、サプライヤに対して、DCS 制御機能以外にもネットワークI/O  の開発が実現できるようにする。

フィールドテスト参加企業の顔ぶれ

エクソンモービルは、パイロットユニットのプロトタイプ開発と並行して2019年からフィールド実験を支援するためのテストベッドの運用を開始する。さらに2020年中頃からは、開発パートナーとして協働することで契約したユーザ企業各社の施設で、OPAF による標準規格をベースとして、順次フィールド実験を開始する計画をもつ。今年のARC フォーラムでは、協働パートナーとして開発提携するユーザ企業名が公開された。これらには、アラムコ・サービス、BASF、ジョージア・パシフィック、コノコフィリップス、プラクスエア(Praxair)、Dow が含まれる。

OPAF 標準化活動の参加ユーザ企業数の増加 

O-PAS 開発と並行して進むOPA 標準化の活動は、オープングループ傘下のフォーラムOPAF で鋭意進行中である。今年2月のARC フォーラムでも、標準化を巡る進展に関して詳細な報告が行われた。この標準化活動はエンドユーザ企業、サプライヤ企業、システムインテグレータ、その他の混合体で構成されている。会員数は2016年に45社だったが、2018年末までに88社規模に拡大した。標準化に携わるエンドユーザ企業に着目すると、当初、アラムコ・サービス、BASF、Dow、エクソンモービル、コッホ・インダストリーズ、メルク、プラクスエア、シェルの顔ぶれだったが、現在ではこれらに、BP、シェブロン、コノコフィリップス、デボン・エナジー、デュポン、メルクKGaA、ペトロブラス、リライアンス、サビック、エクイノールASA、トータル、ヴェダンタ(Vedanta)、ヴォパック、ウッドサイド・ペトロリアムが加わっている。ただし、日本企業の名はまだない。

OPA 標準化の議論の中で、サイバーセキュリティに関する議論が今回初めて公開された。この概要に関しては、後日、改めてこのブログコーナーでご紹介したい。

[2]  基本プロセス制御層のイノベーション

さてここで、OPA の進展で従来のDCS の役割を解体し、変容を遂げようとするプロセス制御システムの将来の技術革新について触れたい。OPA の活動は、レベル2 を標準化しオープン化することで、競合による技術革新をプロセス制御分野に呼び込み、それによってプロセス事業の競合力を蓄えることを重要な目標のひとつに掲げている。しかし、将来のプロセス制御の技術革新は、だれを主体としてどのレベルで実現するかに関しては、ARC のアナリストの間でも議論がある。

かつてプロセス制御の技術革新が起こったのは、基本プロセス制御層(レベル2)であった。DCS の開発と進展がこれをリードしてきた。DCS は、機械式から、電気式へ、さらにコンピュータ化へと進化しながら、制御の高精度化、高速化、大容量化を追求し続け製品の高品質とスループットに貢献してきた。しかしその一方でループ制御の原理的な部分での技術革新の増分はわずかにとどまり、開発の軸がより上位層のデータ処理に移行するに伴って、これまでDCS の更新を果たしてきた石油・ガスおよび石油化学、化学分野のオペレータ企業では、レベル2 をもはや競合分野とはみなさない状況になっている。今やユーザ企業の関心はむしろ、取得されたデータをスマートに活用することによる品質安定化であり設備の効率的な運用と管理である。

これとともに各種I/Oやアクチュエータを含むフィールド機器レベル(レベル1)でも同様にコモディティ化が浸透している。大方の制御弁や伝送器が競っているのは高精度化、高速化といった機能性よりもむしろ、工数の多いエンジニアリング作業の効率性である。

OPAF 標準化と技術革新

OPAF の標準化活動ではISA95 のレベル1、レベル2 の機能向けの標準化システムに焦点がある。これらは、フィールド機器からの基本的な入出力と制御の機能ブロックの実行に関わる。演算処理プロセッサの性能向上とともにループ制御が統合化し大容量化し複雑化している現在のDCS に対して、エクソンモービルをはじめとするOPAF 参加ユーザ企業は、多数の分散化した小規模のループ制御を志向している。現在構想されているDCN ハードウエアは、それぞれが1ループか2ループ程度の制御を担うにとどめることで、プロセス制御にマイクロサービスを導入しようとしている。

標準化グループがこの標準化作業で主眼としているのは、プロセス制御の技術革新ではなく、むしろ、制御に関わる業務変革である。即ち、レベル2 以下を標準化することで、サプライヤ枠を解放し、機器のコストを低減し、エンジニアリングコストを低減し、実装済みの機器の部分差し替えを容易にし、大規模で手間のかかる更新を解消することで、設備のライフサイクルコストを低減するといった目標である。OPAF 標準化の中で、価値を生む情報は、制御を仮想化する上位層に集約される。そうなると、標準化後の、コモディティ化するレベル2 以下での技術革新の余地は一段と困難になるように思える。

OPAF のアーキテクチャは、制御サプライヤがそれぞれに固有のレベル2 の制御アルゴリズムをシステム内に組込むことを可能にしている。したがって、従来のDCS サプライヤが革新的なアルゴリズムを開発してレベル2 制御に組込み適用する道は開かれている。では、ハネウェルや横河電機やABB、シュナイダーエレクトリックといったDCS サプライヤ大手が今後もレベル2 の技術革新の担い手となるのだろうか。

あるARC アナリストは、むしろこれら大手は、すでに実装済みのDCS のサービス事業から得られる収益に依存する体質構造から、レベル2 の技術革新には向かわず、例えば複数ループによるモデル予知制御など上位層での革新を推進する方向に向かうのではないか、と予測する。

また別のアナリストは、OPAF 標準化の基本構想には、従来のDCS 市場への参入障壁を低減し、ガチガチに固まったDCS 市場を小規模プレヤーに解放することが含まれていることを指摘したうえで、新規の参入企業の中で技術革新を実現する企業が出てくるとすれば、それらは恐らくソフトウエアのスタートアップ企業になるだろうと予測している。しかし、そのソフトウエアの開発企業が誰で、またいつどのタイミングでプロセス業界にレベル2 の技術革新をもたらすかに関して予測するのは難しい。