制御室のコロナウイルス感染対策

Submitted by Shin Kai on Sun, 04/19/2020 - 03:13


JXTG エネルギーは4月14日付のニュースリリースで、同社川崎製油所に勤務する社員2名に新型コロナウイルス感染症の陽性反応が確認され、両名は現在自宅療養していることを明らかにした。広報室によれば、当該社員が所属する部署に関しては、個人の特定につながる恐れがあることを理由に公表していない。従って、感染療養中の社員が、制御室のオペレータであるかどうかは不明である。とはいえ、この報道は、大規模な製油所内でもコロナウイルス感染が発生し、制御室といえども “聖域” ではないことを示唆している。

重要インフラのプラント制御室が設計・運用される際には、設備の冗長性、運用性、サイバーセキュリティに加え、採用するオペレータの人的要件について多くの考慮すべき事項がある。一般に人的要件としては、修学歴、セキュリティチェック、訓練習熟度、薬物検査などに基づいてオペレータが選考されるだろう。しかしこれまで新型コロナウイルスの感染爆発のような感染症に対する制御室のリスク管理は、オペレータの健康状態の検査方法も含めて制御室の設計・運用要件として考慮されていなかった。また、制御室のオペレータが危険な感染症の検査で陽性となる場合を想定してこれに対処する計画が、これまで欠如していたことはないだろうか。

制御室のリスク管理

基本はコロナウイルスが制御室に入らないようにすることである。しかし侵入した場合は、迅速にこれを検出する必要があり、ウイルスを持ち込んだ人を特定し隔離し、すべての人的接触を追跡し、感染経路を断つ必要がある。制御室内でひとたび感染が発生すると、その制御室の閉空間で一定時間制御・モニタリング作業を共同で実行し、また制御室に付随するトイレや給湯室・更衣室・休憩室を共有するすべてのオペレータを隔離する必要がある。さらにその感染増大の可能性のあるシナリオに対応するために、あらゆる感染防護手段が施されることになる。

中央制御室のオペレータ要員は従来から、24時間365日の運用を遂行するチーム編成法が様々に検討され、交替サイクルが確立されている。しかし、ウイルス感染対策では、制御室内のオペレータ構成はさらに必要最小限の員数に限られ、チーム構成も再編成される。これによって万一特定のオペレータチームが、チームごとプラントから隔離され現場を離れる場合でも、制御室にスタッフ要員が確保されるように配慮され、操業の継続を可能にしようとする。とはいえ、もとより経験を要するオペレータ員数に余剰はなく、要員の手配ではギリギリの対応を迫られることに変わりはない。

ARCアドバイザリグループは、コロナウイルス対策に関連して、重要インフラ・製造業の操業継続の観点から、すでに50本以上のブログ記事を公開している。この中で今回は、コロナウイルスの感染爆発に対する制御室のリスク管理に関して、ARC シニアコンサルタントのリック・リース(Rick Rys)によるブログ「When the Coronavirus Enters your Control Room (コロナウイルス感染の制御室内での発生を想定した場合)」の概要を以下にご紹介したい。同記事は、米国を中心とする制御室の感染対応のなかから、特に製油所と発電所の制御室で実装されているいくつかの新しい対策を紹介しているが、基本的な課題は日本のプロセス制御室環境に共通している。ご参考にしていただければ幸いである。

コロナウイルスの感染爆発を契機に重要インフラを運用する制御室のオペレータの健康状態への懸念が高まった。業種としては、原子力発電所、化石燃料発電所、製油所、化学プラント、送配電網運用管理、航空管制、陸上交通網管理、食品プラント、製薬プラント、パルプおよび製紙プラントなどが含まれる。これらのプラントの制御機能が失われれば、電力・エネルギ供給や輸送に多大の影響を及ぼし、社会のサプライチェーンを混乱させる危険性がある。ARCは、これらのプラントを運転しているいくつかのエンドユーザにインタビューし、彼らの計画について取材した。まず制御室の構成といくつかのプラントの対策を見てみよう。

制御室の異なるタイプ

旧式のパネル制御盤には、基本的に、スイッチボタン、ライト、およびパネルに取り付けられたコントローラが組み込まれている。これらを用いる施設では、制御室内にオペレータが在席する必要があり、コンピュータネットワークによって遠隔から操作することはできない。I/Oラックルームから特定機能を実行できる場合もあるが、プラントの運転には中央制御室内にオペレータが必要である。

これに対して最近のデジタル制御室は、分散制御システム(DCS)にWindows またはUnix ワークステーションを使用し、オペレータ同士の間のスペースを保つのにいくつかの利点がある。多くのプラントには、中央制御室のすべての主要機能を備えたローカル制御室のようなバックアップアーキテクチャを備えた制御室がある。大規模な製油所や化学プラントには、精製設備用の中央制御室があり、ユニットの運用操作ごとに1つずつ、総じて6〜12のローカル制御室を持つプラントもある。フィールドオペレータはこれらのローカル制御室に立ち寄る傾向があり、コンソールオペレータとフィールドオペレータはお互いの業務に精通していることもあって、追加のバックアップ要員ともなりうる。他方、ほとんどの原子力発電所は、発電所の運転に使用可能な緊急対応制御室を備えている。 NUREG-660(米国商用原子力発電所ライセンス更新指針のひとつ)では、原子力プラントに3つのシステムが必要と規定しており、これらは技術支援センタ(TSC)、オンサイト運用支援センタ(OSC)、および緊急運用施設(EOF)である。

原子力発電所ではセキュリティ上の理由から許可されていないが、オペレータ制御ステーションはリモートデスクトップまたはXウィンドウアプリケーションをサポートしているため、離れた場所に追加の席を設置できる。これを追加するのは比較的容易なため、その機能を実装中のプラントも出てきている。 DCS システムは、新しい運用ステーションを追加し、これを隔離した別室に配置することが可能である。リモートステーションを追加するのは容易である一方で、このようなアーキテクチャの突然の変更には問題がないわけではない。コンソールオペレータは携帯トランシーバを使用するが、カスタム警報パネル、パネル装備ライト、中央制御室のコンソールまたはパネルに結線された大きな赤いシャットダウンスイッチなど一部の機能は、隔離した別室に簡単には移動できない。もとより原子力発電所はリモートデスクトップを許可していない。また稼働中のプラントの制御システムアーキテクチャを変更すると新たなリスクが生じる可能性があるため、原子力発電所以外のほとんどのプラントもこのソリューションを採用していない。しかしそのような制御室も、将来は、制御室向けにオープンスペースの大部屋設計を採用しないようになり、あるいはオペレータ間のスペースを広くとって、オペレータ毎に新鮮で浄化されたエアフローカーテンのしきりを追加する(ことで飛沫感染を防ぐ)可能性がある。

新たな作業手順の整備

米国政府は、発電所を国の重要なインフラの一部と見なしている。米国土安全保障省(DHS)は、重要業務に携わる職員をコロナウイルスから防護するための措置を有効化することについて、3月19日に政府機関および企業人向けに指針を公開した。

これに準じて、すべての重要施設が共通に対応しているわけではないが、いくつかのサイトでこの実施例が見受けられる。まず中央管理室は施錠されている。これは、コンソールオペレータのみが入室を許可され、訪問者、監督責任者、エンジニア、保守スタッフは入室が許可されないことを意味する。多くの現場では、オペレータは4人の要員構成で12時間交替のシフトで運転している。原子力発電所は通常5人の要員構成で、この5人めは訓練要員である。変更点は、オペレータが要員相互間で交流接触することに障害を設けたところにあり、場合によっては、要員は通常の12時間シフトで14日間の割り当て任務を実行する際に、シフト交替のたびに帰宅することになる。制御システムのサポート担当者は、A / Bグループが隔週交替でプラント勤務と在宅勤務を7日ごとに切り替えて作業している。制御グループは、オペレータ以外で中央制御室に入室が許されている唯一の担当グループである。12時間ごとのシフト変更時には、キーボード、マウス、テーブル、その他の機器の表面にアルコール溶液を噴霧するクリーニング作業が新しい儀式になっている。

これらのオペレータと管理スタッフは毎日帰宅しており、コロナウイルス感染を防ぐ方法に関してはすでに特別な教示指導を受けている。しかしこの体制にも、いくつかのリスクがともなう。たとえば、オペレータの配偶者がウイルスに曝されている病院で働いているかもしれない。また取材したある製油所では、労働争議を想定した労働組合交渉の一環として、最近、緊急事態訓練が実施されたという。これは、オペレータが病気になって隔離された場合に運転作業を肩代わりする必要に備えて、プロセスおよび制御システムエンジニアが運転の訓練を再受講することを意味していた。ARC は常々、オペレータを迅速かつ効果的に訓練するためにシミュレータ活用を強く提唱してきたが、オペレータが重要なプロセスを実行する準備が整うまでには時間を要する。

これら製油所の保守要員は現在もフルタイムで働いているが、作業工程ごとに感染を避ける社会的距離の維持(ソーシャルディスタンシング)と新たな作業手順が整備されてきている。グループでの作業を要するオプションのフィールド作業には遅れが生じているものの、基本的な保守作業は継続されている。

誰もが経験しているもう1つの大きな変化は、Web 会議活用の大幅な拡大であり、オペレータとエンジニアの誰もが最新のWeb 会議アプリを活用して、高レベルの情報交流を確保することに努めている。かつてこれまで中央管理室で行われていた朝礼全体会議は、今や仮想的に実施されている。経営計画グループおよび遠隔業務が可能なスタッフは誰もが遠隔で仕事を遂行している。

発電所と伝送網運用センタの中には、数か月間は無理でも数週間、スタッフが現場に留まることができるように、簡易ベッドや食料などの備品を備蓄しているところがある。(ちなみに米国では全米50州が緊急事態を宣言し、40以上の州が州全体に外出禁止令を出している。)

ISO ニューイングランド(ISO New England)のような送配電網(グリッド)オペレータ企業は、すでに定常的に中央制御室を用いず、遠隔制御室からグリッドを運用制御しているが、現在それらのグループ相互間でも交わる機会はなくなっている。同社が採用した最近の活動指針の概要は次のとおりである。

  • 制御室へのアクセスを制御室スタッフのみに制限する
  • 中央制御センタとバックアップセンタ間のシステム運用シフトを分断することで、チーム構成員間の相互汚染の可能性を最小限に抑え、より頻繁な制御室の洗浄を可能にする
  • 優良事例と状況認識を共有するために、伝送会社や他のISO (独立系統システムオペレータ)やRTO (地域伝送組織)と調整する
  • リソースオーナ(主として近接する周辺域の伝送網オペレータ企業だが、これに加え大規模発電施設、大規模工業施設も含む)と連絡を密に取り、スタッフや業務運用の課題を理解する

天然ガス業界には、漏れが発生した場合にガス供給を停止するために顧客先である家庭に入る必要があるなど、考慮すべき特定の状況がある。3月17日のニュース発表文で、全米に天然ガスを供給する200を超える地域エネルギ会社を代表する米国ガス協会(American Gas Association)の社長兼CEOであるカレン・ハーバート(Karen Harbert)氏は、「天然ガス事業者は、顧客の家に入る必要があることもある従業員のために、より高レベルの衛生と感染防護を実践している」ことを明らかにしている。

プロセス制御の遠隔運用

制御室のコロナウイルス対策に絡んで、ARCリサーチ・ディレクタのマーク・セン・グプタ(Mark Sen Gupta)は以上とは別の観点から、従来型の制御室中心の制御・管理にとらわれずに、先進技術の取り込みと遠隔・在宅運用を検討する機会として、制御運用設計と働き方の再考を促すARC Insight 報告「COVID-19: An Opportunity, Not a Headwind, for Industry and Workers (コロナウイルス対策:逆風でなく業界と人の働き方を再検討する好機として)」を発表している。AS会員企業の皆様にはご一読いただければ幸いである。